
殺した相手を描かずに描く!
芳幾「英名二十八衆句 佐野治郎左ェ門(えいめいにじゅうはっしゅうく さのじろうざえもん)」
※以下、図版は一部を除き「国会図書館デジタルコレクション」「国文学研究資料館電子資料館」からの引用です。色合い等、今回の展示品と違う部分があります。

この展示会の目玉はなんといっても、血まみれで首がゴロゴロしまくる浮世絵シリーズ「英名二十八衆句(えいめいにじゅうはっしゅうく)」。

芳年と芳幾が半分の14図ずつ担当してるんですね。

描かれているのは、芝居や講談などで知られた残虐な刃傷沙汰・殺戮28シーン。
これらが、さすがの画力で迫力いっぱいに表現されていて圧倒されます。
みんな見応えあるのですが、あえて1つ紹介するとすれば、芳幾の担当した
この作品。

『英名二十八衆句 佐野治郎左ェ門』芳幾 大判錦絵 慶応3年(1867年)
(この図版の出典:国文学研究資料館 電子資料館)
※展覧会展示品の所蔵は西井コレクション

「吉原百人斬」と呼ばれる事件を題材にした、佐野治郎左ェ門という男が遊女”八つ橋”を殺す場面なんだけど、この絵は、ぱっと見ると殺人者の佐野のみ描かれてるように見えるよね。殺された相手はどこに描かれてると思う?

左下の足ですかね……? 右下の首は年配の女性っぽいし……。

おそらくそれもそうだね。だけど、佐野の身体をよく見るのだ。


手、手形があります、血の……ひえええ……!

遊女自身ではなく、その血手形を描くことによって、この場面以外の情景をも表現している……。その表現力、アイデアにしびれましたね!
それと……。


佐野の突き破っている八間行灯にも、ホコリ?を擦ったような手形がついていて、そのホコリのついた手形も佐野の足についている(色の違いで表現)のがまた細い。

ネットとかでは、ついざっくり全体を見て終わってしまいがちですが、実際目にして隅々まで見ていくと色々発見がありそうですね。

それにしてもその八間行灯というものは、すごく大きいですね。
成人男性がすっぽり包まれるくらい。実際、こんなに大きかったんですかね?

形は違うけど、寛政11年(1799年)の洒落本『傾城買談客物語』に、男性の体を包み込めそうなくらい大きな行灯の絵があるね。

『傾城買談客物語』
式亭三馬 洒落本 寛政11年(1799年)
(出典:国立国会図書館デジタルコレクション)
絵師は横顔シルエットで語る。
芳幾「真写月花の姿絵 三代目沢村田之助(まことのつきはなのすがたえ さんだいめさわむらたのすけ)」

これも、ひと目見てカッコよさにびっくりしたやつ!

『真写月花の姿絵 三代目沢村田之助(まことのつきはなのすがたえ さんだいめさわむらたのすけ)』
芳幾 大判錦絵 慶応3年(1867年)
(この図版の出典:国文学研究資料館 電子資料館)
※展覧会展示品の所蔵は悳コレクション

えっ……浮世絵でもこんな表現してたんですね!

当時、障子に写る影を写し取って肖像画を描くことが流行したらしいです。
芳幾本人のものもあるよ!

『くまなき影』
芳幾・柴田是真 大本 1冊 慶応3年(1867年)
(この図版の出典:国文学研究資料館 電子資料館)
※展覧会展示品の所蔵は毎日新聞社新屋文庫

カッコよすぎ……。これが35歳芳幾の横顔……。やっぱ絵を描いている姿なんですね。
次のページからは……
のけぞる!砕ける!そして後ろ姿の美しさよ……。芳年「芳年武者无類(よしとしむしゃぶるい)」