【怪異ノ浮世絵】相馬の古内裏(滝夜叉姫/骸骨/髑髏)【歌川国芳】

藤城

この記事は、妖怪や幽霊など、
「怪異」を描いた浮世絵のストーリーを解説していくシリーズ「怪異ノ浮世絵」の第一回目です!

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解説する人

ハマダアヤ

『歴史千客』を運営する一般社団法人千客来結の代表理事。
歌川派の推し浮世絵は国芳の「相馬の古内裏」。

話を聞く人

藤城洋次

江戸漫画絵師。
歌川派の推し浮世絵は国芳の猫の絵全般。

この浮世絵に描かれた怪異はコレ!

藤城

大きな髑髏(骸骨)が印象的な、
国芳の浮世絵でも人気の一枚ですよね!

藤城

でも、タイトルの「相馬の古内裏」といい、
なにげに何をモチーフにした作品なのか
知らなかったので、ここで学んでいきたいと思います!

この浮世絵に描かれた物語とは?!

藤城

左に描かれた女性が、
中央の男性に巨大な髑髏の怪を
けしかけている図に見えますね。

藤城

中央の男性二人のうち、
一人がもうひとりを取り押さえている……?

ハマダアヤ

この女性は「滝夜叉姫」という名前だよ。
更に、「大宅太郎光國」と側に書いてある男性が
「荒井丸」と側に書いてある男性を
取り押さえている図だね。

藤城

滝夜叉姫?!
なんかカッコいいけど、
女性の名前にしては
凄みのある名前ですね……。

ハマダアヤ

まあ、父の復讐のために、
尼さんから転職……いや、
いわば闇堕ちした時の名前だからね……。

藤城

父の復讐って……。
彼女のお父さんは
一体どんな人だったんですか……?

ハマダアヤ

彼女のお父さんは「平将門」という
平安時代の武将だよ。

藤城

ま、将門って、
あのいわゆる日本三大怨霊の?!

ハマダアヤ

そう。9世紀に中央に対して乱を起こし、
更に時の天皇である朱雀天皇に対抗して
「新皇」と名乗り、討伐された将門公のことだよ。

ハマダアヤ

タイトルにある「内裏」は
天皇の住むところを指す言葉で、「相馬」は地名。
下総国(※)にかつて存在した場所だね。

※現在の千葉県北部と茨城県南西部

藤城

つまり「相馬の古内裏」は、
将門の残した屋敷という意味なんですね。

藤城

じゃあ、なんで姫はその屋敷で
男性……「大宅太郎光國」を
髑髏に襲わせているんでしょうか?

ハマダアヤ

滝夜叉姫は、父の遺業を継ぐために
仲間を探していたんだよ。
これぞという男を屋敷に呼び寄せて、
腕試しをしていたの。

ハマダアヤ

この絵のシチュエーションでは、
大宅太郎光國は平家の関係者に
さらわれた妻を探すための旅の途中で。

ハマダアヤ

相馬の古内裏に平家由来の妖怪が出る噂を聞いて、
妻の行方のヒントになるかと思って入り込んだという
状況なんだ。

藤城

大宅太郎光國はなぜ、
荒井丸を取り押さえているのでしょう?

ハマダアヤ

荒井丸は滝夜叉姫の臣下で、
光國を仲間に引き入れようとしているんだけど、
当然、光國は悪の手先になんかなりたくないから
揉めているという感じかな。

藤城

なるほど、つまり……
妻を探して古屋敷に入り込んだ大宅太郎光國。
そんな彼を巨大髑髏が襲う!
それは平将門の遺児・滝夜叉姫の妖術で
呼び出された怪異だった!

……という瞬間を切り取った絵
ということなんですね!

元ネタ・出典はコレだ!

ハマダアヤ

この浮世絵の元ネタは、
江戸中期の人気作家「山東京伝」の作品
「善知安方忠義伝(うとうやすかたちゅうぎでん)」なんだけど……。

ハマダアヤ

実はこの「忠義伝」では、
国芳の浮世絵に描かれたような
巨大髑髏は登場しないんだよね……。

藤城

え、そうなんですか?!

ハマダアヤ

妖怪的な髑髏自体は
色々と登場するんだよ。

ハマダアヤ

しかし滝夜叉姫と光國が対峙するシーンでは
髑髏の怪は登場しない。

藤城

じゃあ、なんで
こういう構図にしたんでしょうね?

ハマダアヤ

この髑髏の怪は「平家もののお約束」……
みたいなものだったのかなと思うんだよね。

ハマダアヤ

浮世絵でもいくつか描かれているんだけど
「平家物語」で平清盛が髑髏の大群に
遭遇するというシーンがあるの。

ハマダアヤ

例えば葛飾北為の「福原殿舎怪異之図」(下図)なんかが
そのシーンを描いた浮世絵だよ。

藤城

ああ、なるほど。
・滝夜叉姫が平将門の娘である
・滝夜叉姫が妖術使いである
これを1枚絵で表現するとしたら……

ハマダアヤ

そう、髑髏の怪を選ぶのが
わかりやすかったのかなと。

ハマダアヤ

あと、なんで巨大髑髏なのかといえば、
絵的には大きな髑髏が見栄えするから
かもしれないね。

藤城

確かにこの大きな髑髏は迫力があって
一発で印象に残りますね!

藤城

そんな着想とそれを魅せる技術は
さすが国芳!といったところですね!

著者

歌川国芳(一勇斎国芳)

引用元

国立国会図書館 
この画像はみやすくするために合成および独自の色調補正を行っております

参考文献:高田衛・原道生(1987).『叢書江戸文庫18 山東京伝集』.国書刊行会

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この記事を書いた人

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